自治体職員の読書ノート

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【484冊目】伊坂幸太郎「死神の精度」

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

伊坂幸太郎作品は3冊目。最初の「チルドレン」は正直イマイチ。2冊目の「終末のフール」はまあまあ。そして、3冊目の本書はすごく楽しめた。

「フール」もそうだったが、設定がまずユニーク。本書の主人公はなんと「死神」である。しかもそれが「仕事」なのである。彼が属するのは調査部。7日間にわたって、一人の人間を調査し、死をもたらすべきかどうかを決める。しかもその死神、なぜか音楽好きで仕事をサボってはCDショップの視聴機の前を離れない。味が分からず、痛みを感じず、素手で触った人間を気絶させ、知的でクールに見えるが常識や言葉の言い回しに疎く、的外れな発言を連発する。要するに、「死神」という設定もユニークだが、その周辺設定がまた周到で面白いのである。

そして、その設定をいかんなく活かしているのが個々の短編である。これだけユニークな設定だと、得てして物語が設定に負けてしまうものであるが、伊坂幸太郎にはそういうことがない。むしろ、設定が物語を活かし、物語が設定を活かしている。しかもそのバラエティが幅広い。ヤクザの抗争に死神を巻き込んだ「死神と藤田」、吹雪に閉ざされた洋館で起きる殺人という、本格ミステリのパロディ「吹雪に死神」、殺人犯と死神が旅をする「旅路を死神」など、ひとつとして同じものがないのである。その中で死神という設定を活かし、ストーリーに読者を引き込み、ポップな会話の中にさりげなく人の生と死を織り込んで読み手をどきりとさせる。いやはや、たいしたものである。

なお、本書は短編のタイトルも凝っている。並べてみよう。「死神精度」「死神藤田」「吹雪死神」「恋愛死神」「旅路死神」「死神老女」。そう、助詞(「対」は違うが)がすべて違うのである(やや無理目なものもあるが)。