自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【457冊目】今川晃・山口道昭・新川達郎「地域力を高めるこれからの協働」

地域力を高めるこれからの協働―ファシリテータ育成テキスト

地域力を高めるこれからの協働―ファシリテータ育成テキスト

行政と住民の協働に関する総論、各論、実例とりまぜた本。いろいろ気づく点もあったが、特に思ったのは、協働を実現するためには、協働協働とあまり言わないほうがいいのではないか、ということであった。

別に本書にそう書いてあるわけではない。むしろ、特に総論部分では、協働理念の条例化とか、協働の姿勢のない職員は職場を去れ、とか、協働なのに市民がボランティアで職員は給料をもらっているのはおかしい、とか、まあかなり強烈な「協働原理主義」の指摘が並んでいて、協働の全面推進本である。

ただ、その総論と具体例部分が合っていないような印象が残ったのだ。実際に、結果として行政と住民が協働している例が本書にはたくさん載っているのだが、そうした例をみると、協働という理念が先行しているわけではなく、具体的な問題が生じたり、住民側から何か動きが出てきたりして、現場の中で泥まみれで試行錯誤しているうちに、気がついたらいわゆる「協働」になっていたというケースがほとんどなのである。確かに、そうした状態を実現するためには行政側が「一歩引く」ことが大事ではあるのだが、それだって、現場の職員の実感としてそうなるということであって、いずれにせよ理念先行はあまり意味がないように思う。

また、協働理念を条例化した自治体についても、豊富な実践例があってはじめて条例化の必要が生じているということであって、いずれにせよ実践が先、理念は後追いだと思うのだ。そして、実践とはあくまで現場の問題解決のレベルから生じてくるものであって、下手にそれを「協働」という枠でくくることは、別の意味で行政側の押し付けになりかねない。

そもそも行政側が「協働」と言い出すこと自体、協働理念からするとかなり微妙な問題をはらんでいるのだが、そのあたりの難しい事情は本書にもちゃんと書かれている。もっとも、そうなるとわれわれ自治体職員はどうしたらよいのだ、ということになるのだが、結局は現場をしっかり見て、そこで泥まみれになるしかないのである。その中で結果として生まれてくるはずのものを先に考えるのは、原因と結果の取り違えになりかねない。