自治体職員の読書ノート

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【437冊目】山東京伝/棚橋正博校注・編「江戸戯作草子」

江戸戯作草紙

江戸戯作草紙

江戸戯作にもいろいろあるが、本書には山東京伝の「箱入娘面屋人魚」「九界十年色地獄」「人間一生胸算用」「桃太郎発端話説」「御誂染長寿小紋」の5編が収められている。さらに、その間と後を田中優子江川達也、フレデリック・F・ショット、三遊亭円遊、小林忠、夏目房之介辻惟雄の短文がつなぎ、さらに冒頭と末尾で、黄表紙を中心とした江戸戯作論や山東京伝に関する基本的なところを編者の棚橋氏が解説するという、なかなか念入りな構成となっている。

メインはやはり山東京伝の戯作5編であるが、これがとてつもなく面白い。荒唐無稽でぶっとんだ発想、ユーモラスな人物描写、さらに絵や文章の中に隠された数々の「見立て」をはじめとする趣向、いずれもただごとではないセンスである。いずれも傑作揃いで例を挙げるにも迷うが、例えば最初の「箱入娘面屋人魚」では、乙姫の目を盗んで浦島太郎と竜宮城の茶屋女「お鯉の」が浮気して子をなし(もちろん人と魚の間に生まれたからには人魚である)、これが浦島太郎に捨てられたところを釣り船に拾われ・・・・・・という展開(さらにこの後、人魚の波乱万丈の「人生」が続く)なのである。また、個人的に一番面白かった「人間一生胸算用」は、映画「ミクロの決死圏」のごとく、作者京伝自身が、商人「無次郎」の身体の中に入るという設定からして驚かされる。さらに、入り込んだ体の中では、旦那である「心」(理性と良心)が「手」や「口」などを綱でつないで言うことを聞かせており、その上、番頭株の「気」(今で言う「欲」のようなものか)が「心」を追放して道楽三昧、無次郎は借金だらけになってしまう。

こうしたストーリーに加えて、やはり細部の描写やセリフ回しがまた面白い。ほとんど赤塚不二夫の世界である。しかも、その中には一定の教養がないと気付けない笑いも隠されており、いかにも江戸の町人が好みそうな趣向があちこちに凝らされている。残念なのは、絵とともにびっしり書かれている元々の文章が、私にはほとんど読めないこと。活字化されたものが欄外に書かれているので不便はないが、本来の読み方とは違ったものになってしまっているのは事実である。

それにしても、戯作の世界はなんだかこのまま放っておけない予感がする。もっといろいろ読んでみたい。それに、今のマンガとのあまりの「似方」も気になる。しばらくは、戯作の世界で遊んでみようか。