【430冊目】乃南アサ「晩鐘」
- 作者: 乃南アサ
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2005/05
- メディア: 文庫
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母親を殺害された高浜真裕子。殺害者の息子、笹塚大輔。犯罪の被害者と加害者の家族の7年後を描く長編小説。
同じ著者の「風紋」という小説の7年後という設定らしいが、全然知らないで読んでいた。しかし、それでも十分楽しめる。ちなみに、本書を知ったのは佐賀県武雄市の樋渡市長のブログ「武雄市長物語」で紹介されていたことから。なお、市長さんもこの本は、知人の方に「生涯一の本」として薦められたとのこと。まことに、本との出会いには「縁」と「きっかけ」を大事にしたいものです。
さて、内容は市長さんが書いているとおり「軽いし重い」。犯罪被害者の救済という問題は最近いろいろ取り沙汰されているが、マスコミによる二次被害も含めて、小手先で解決できるようなコトではないとよく分かる。一方、加害者の家族も、一個の犯罪によって人生がずたずたに破壊されてしまうことは同じ。本書の凄みは、加害者側、被害者側それぞれの「その後」を残酷なほどリアルに描き出している点にある。
こうした深くやりきれないテーマを扱い、しかも新たな事件がほとんど起こらないにも関わらず、信じられないほど読みやすいのが、本書が一方でもっている「軽さ」であろう。とはいっても、それはストーリー展開の軽快さなどによるものではない。むしろ、おそろしいほどリアルな心理描写の凄みで、読む手が止まらなくなるといったほうが正しい。特に高浜真裕子の心理描写の巧さはただごとではない。乃南アサとは、これほどの筆力をもつ作家であったのか。
残念ながら、それに比べて笹塚大輔の存在にはややリアリティを感じなかった。むしろその「母親」の零落ぶりの描写のほうが堂に入っている。同性だからということもあるのだろうが、全体的に女性のちょっとした心の動きや仕草を描くのが実に上手い。ストーリーはご都合主義的な符合がかなり目立つし、これほどの分量(文庫本で上下あわせて1300ページくらい)にもかかわらず性急な展開も気になる。特にラストは、個人的にはやや納得がいかなかったところ。
ということで、手放しで絶賛できる読後感ではなかったが、力作であることには変わりない。できれば「風紋」を読んでから読みたかった。