自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【424冊目】小川洋子「寡黙な死骸 みだらな弔い」

寡黙な死骸 みだらな弔い (中公文庫)

寡黙な死骸 みだらな弔い (中公文庫)

11の短編が収められている。基本的には別々の小説なのだが、他の小説とどこかでつながっている。

どれも「奇妙な味」の短編である。不思議な雰囲気で、ちょっとブラックな味わい。そして、その中にかすかな哀しみが漂っている。表題のとおり「弔い」の時に感じるような、過ぎ去った何かを悼む時を思わせる静かで落ち着いた悲哀。そう、本書の11の短編に共通しているのは、奇妙な「弔い」の感情であるように思える。

実際に誰かが死ぬという話ばかりではない。他人のための弔いばかりではない。むしろ印象に残るのは、過去の(あるいは現在の)自分に対する弔いである。自分の中の何かを失い、あるいはあきらめた時に感じる、静かな弔いの感情。

異様なイメージやオブジェの数々も印象に残る。掌の形をした人参。道路に散乱したトマト。死にかけたベンガル虎。身体の外に露出したまま脈打つ心臓。中でも、象徴的なのが「拷問博物館」である。「実際に使われた拷問器具のみを集めた」という異様な博物館の存在はもとより、そこに憑かれて入り浸っていく女性の孤独が奇妙に印象に残る。この「拷問博物館」が、私が読んだ印象では、本書の中心に位置する存在のように思えた。読み方はいろいろあろうが、私はこういう不思議な味の小説、嫌いではない。