自治体職員の読書ノート

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【404冊目】海野進「これからの地域経営」

これからの地域経営―ローカル・ガバナンスの時代

これからの地域経営―ローカル・ガバナンスの時代

注意すべきは「自治体経営」ではなく「地域経営」であるところ。つまり、本書はさまざまなステークホルダーのひしめく「地域」そのものの「経営」について書かれた本である。

本書では、地域経営を企業経営になぞらえつつ(著者は中小企業診断士の資格を有している)、「現状分析」「経営戦略」「マネジメント」といった経営論の基本事項について地域経営にあてはめて論じていく。その中で最も重要となるのが、地域を経営する「主体」となるのは誰か、という問題である。本書は、自治体や地域の産業団体、町会などの住民団体、企業、NPOなどの多様なステークホルダーからなる「地域経営委員会」と「最高経営責任者」を、経営主体として挙げている。

前者はネットワーク型の「総合的な地域経営主体」であり、多種多様なプレイヤー間の調整を図り、方向性を決定する。後者はその代表として、強いリーダーシップによって地域経営を実行する。まさに企業的な経営手法を地域に応用したものであるが、従来のように、地方自治体が個々の利害や要望を個別に調整してパッチワーク的な政策形成を行うのに比べて強力かつ統一的な地域経営をなしうることは明らかであり、面白くかつ現実味のある手法といえる。

他にも、図表をふんだんに駆使し、企業経営の手法を見事に地域経営に応用する内容となっており、参考になる点がきわめて多い一冊であった。中でもなるほどと思わせられたのは、現状分析から3通りのシナリオを導き出すという「シナリオライティング」の手法。現状分析をどれほど精緻に行ったとしても、将来性を正確に予測することは難しく、自治体における長期計画などでは、ある程度平均的な、あるいはやや希望観測的な予測から計画を立てることが多いように思われる。しかし、本書で呈示されているのは、「バラ色のシナリオ」「現状延長シナリオ」「灰色シナリオ」の3パターンによる予測を行い、それぞれに対応した3通りの対応戦略を用意する点である。特に、悲観的な「灰色シナリオ」については、対応戦略にコストがかかることもあって、単一の対応戦略のみを用意するような場合にはなかなか採用されにくい。しかし、このように機械的に3つの対応戦略を用意するとなれば、幅広いシミュレーションと最悪の事態に備えた政策形成が可能となるのであり、こうした発想は自治体の施策管理にも応用できる(というか、すべき)と思われる。