自治体職員の読書ノート

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【400冊目】佐藤優「国家の謀略」

国家の謀略

国家の謀略

北京オリンピック開催日に本書というのも奇妙な符合である。しかも400冊のキリ番。国と国との関係、その「オモテ」の極致がオリンピックなら、「ウラ」の極致こそ本書に描かれたインテリジェンスの世界といえよう。

さて、本書はSAPIOでの連載をテーマ別に編集したものである。著者自身が関わってきたインテリジェンスの世界を活写するとともに、それを通して今の世界情勢を裏側から垣間見るものとなっている。

インテリジェンスとは、単なる情報(インフォメーション)ではなく、「情報の正確さ、その情報の背景にある事情、また、その情報がどのような役に立つかについての評価を加えられたもの」であるという。その主な舞台は国家間の情報争奪・分析活動であり、従って、インテリジェンスについて書くことは、スパイ映画さながらの、情報をめぐる国家間の暗闘を描き出すことになる。

本書では世界各国のインテリジェンスの現状をその国家の状況と関連付けながら描写しているが、特に強調されているのが日本におけるインテリジェンスの現状である。中でも、本書によって初めて知ったのが、戦前・戦中の日本におけるインテリジェンス集団である「陸軍中野学校」の存在であった。「南朝イデオロギー」を基本思想に据え、「生きて虜囚の辱めを受けず」と言われていた当時にあって「生き抜いて報告するのが任務」と言い切り(時にはあえて捕虜となって誤情報を流し)、著者によれば当時世界第3位のインテリジェンス能力をもつ集団である。ちなみに著者によると、その国の国力(主に経済力)とインテリジェンス能力はおおむね正の相関関係にあるという。今の日本のインテリジェンス能力も、いろいろ問題はあるもののそれほど卑下するようなものではない、らしい。

インテリジェンスの世界はまさに「戦争」であって、一見平和そのものにみえる国家間においてすら、裏側ではすさまじい暗闘が行われていることがよく分かる。面白いのは、それが一種の知的ゲームの装いをもち、エレガンスとユーモアを交えた戦いである点だろう。エルメスのネクタイを一本贈られたら日をおいて二本贈り返す、誘われた食事は断らない、徐々にエスカレートしてくる「警告」には応じるタイミングを見極めるなど、何気ないやり取りや判断の中に暗黙の「ゲームのルール」があり、ちょっとしたことからすべてが破綻する。その背後に横たわっているのは、国家間の徹底したリアリズムと、そのために身を投げ出すプロたちの哀愁。今まで見えなかった世界が見えてくる、実にエキサイティングな一冊である。