自治体職員の読書ノート

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【396冊目】田中優子「近世アジア漂流」

近世アジア漂流

近世アジア漂流

日本は島国である。だが、島国だからといって、その島の中に閉じこもるとは限らない。

むしろ多くの「島国」は、海を介して他の国々と盛んに交流し、外部とのつながりが案外に豊富で多様なものらしい。日本もまた、例外ではなかったようである。「鎖国」ということで海外からの影響を排した生活を送ってきたと言われがちな江戸時代でさえ、実は海外、とりわけアジア諸国と日本は密接な関係にあったという。そのありようが、本書では実に生き生きと描かれている。

また、近隣のアジア諸国から日本人がどう見られてきたか、という、案外これまで見落とされていた視点も、本書ではしっかりとフォローされている。本書で特に書かれているのは、朝鮮半島を中心とした東アジアにおける日本人の姿である。それは、ひとことでいえば侵略者である。秀吉の朝鮮侵略もあるが、その前から跋扈していた「倭寇」の存在が、はやくから日本人の侵略者としてのイメージを東アジアに植えつけてきたという。

本書で引用されている田中健夫氏の計算では、14世紀の倭寇船には1艘あたり20人〜多くて80人程度が乗り込んでおり、こうした船が何と100艘から500艘という大船団を組んで動いていたという。総計2000人から40000人、女も馬も載せ、単なる海賊行為のみならず奴隷売買までも行う彼らは、すでに賊というレベルではない。著者が書くとおり、「海の移動遊牧民族」のような武装商人であったらしい。倭寇という存在については聞いたことがあったが、まさかこれほどの大集団とは知らなかった。

また、本書では著者得意の江戸時代の描写も存分に行われている。江戸文化に影響を与えた東南アジアのエキゾティズム、シノワズリ、さらには洒落本や秋田蘭画などその対象は幅広いが、中でもかなりの比重を占めているのが平賀源内の活躍を描いた文章である。もっとも、活躍とはいっても、源内の生涯は、その才気煥発と多彩なマルチタレント性にもかかわらず、決して満ち足りたものではなかったらしい。本書では、源内の活躍ぶりやその才能を物語るエピソードだけではなく、その人生の悲哀にも触れ、源内という希代の「山師」の本性に迫っている。