自治体職員の読書ノート

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【391冊目】夢野久作「人間腸詰」

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「人間腸詰」「焦点を合わせる」「空を飛ぶパラソル」「眼を開く」「童貞」「一足お先に」「狂人は笑う」「キチガイ地獄」「冗談に殺す」「押絵の奇蹟」の10篇を収録。

なんとも異様な短編集である。読んでいると、現実と夢、正気と狂気、嘘と真の境界がぐずぐずと崩れてくるような錯覚に陥る。特に、自分が自分でなくなる瞬間、それまで確固として存在するつもりだった自分自身が、実はそうではなかった(出生の秘密、夢だった、発狂していた、そもそも別人だった・・・・・・)とわかる瞬間が怖い。ちなみに、こうした要素はそのまま代表作「ドグラ・マグラ」のモチーフとなっており、関連性がうかがえる(特に「一足お先に」「キチガイ地獄」あたりはだいぶ近い)。

短編として一番完成度が高いと思われるのが「押絵の奇蹟」だろうか。これは10篇の中でもっとも「まともな」話に近く、といっても出てくるテーマは妊娠にまつわる奇談なのだが、どこか物悲しく、せつない印象を残す逸品である。小説としての結構も10篇の中では最も整っている。ちなみに、江戸川乱歩が絶賛したらしい。

ミステリっぽいものも多く、ネタバレになってしまうのであまり内容は詳しく書けないのであるが、ラストのどんでん返しで現実感がぐるりと裏返るものも含め、狂気と幻想の乱舞、異様なイメージと発想の連続、まさに夢野久作ワールド全開である。だいたいタイトルからしてすさまじい。「人間腸詰」「キチガイ地獄」など、尋常ではない。正直、小説としてのクオリティにはだいぶばらつきがあるのだが、読み終わって「小説としてはイマイチかな」と感じたものほど、その異常なイメージが後々まで脳裏に焼き付いて離れないのだから油断ならない。