自治体職員の読書ノート

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【387冊目】三浦哲郎「おろおろ草紙」

おろおろ草紙 (講談社文庫)

おろおろ草紙 (講談社文庫)

おろおろ草紙」「暁闇の海」「北の砦」「海村異聞」の4篇の歴史小説をおさめる。

とにかくすさまじいのは表題作の「おろおろ草紙」である。これはなんと天明の大飢饉下の奥州山村における「共食い」の記録なのである。餓死者を食い、墓を掘って屍骸を食うのみならず、人を殺して食う人が続出する。特に犠牲になるのは小さな子供である。陰惨な場面が続出するが、それも圧倒的な飢餓の故であることを考えると、いやおうなく人が人でなくなる瞬間の、すさまじさの奥にある圧倒的な哀切に、読んでいて身動きが取れなくなった。

「暁闇の海」は、ひょんなことから幕軍の軍船に乗り込んで官軍との戦いに巻き込まれた連中の話、「北の砦」は極寒の蝦夷地に労働に借り出されたところで起きた謎の浮腫による死の連鎖、「海村異聞」は10年ぶりに村に帰ってきたが一切口を利かない男の話である。前2者と表題作に共通するのが、「サバイバル」という一点、言い換えれば、生き抜こうとする人々の苦闘を描いているという点であろう。特に極寒の地での謎の死に怯える人々を描いた「北の砦」の凄みは表題作に次ぐものがある。「海村異聞」はどこか寓話めいた短い一篇。卯之吉がなぜ口を利けなかったのか、その謎がラストにぽつんと残る。