自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【382冊目】白沢節子「公務員の改革力」

公務員の改革力―住民が満足する77の法則―

公務員の改革力―住民が満足する77の法則―

主として中堅公務員向けに書かれた、自己改革のための自己啓発本。住民サービス向上、コミュニケーション力アップ等を図るためのヒントを、77の項目で並べている。

内容はかなり公務員の現状に対して手厳しいが、素直にうなずかされ、納得できるものばかり。おそらくその理由は、著者の立場が基本的にフェアであり、かつ毅然としていること、比較の視点がしっかりしていること、マスコミなどにありがちな頭ごなしの批判ではなく、理路をきちんと立てているためであるような気がする。

本書の基本的なスタンスは、公務員一人一人の意識向上、スキルアップによって全体のレベルアップを図るというところにあるように思う。逆に言えば、首長や上司などによる組織的対応にはあまり期待をしていない(というか、読者として想定していない)。確かに、本書を読んで意識改革を図り、他の職員の見本となるような職員が中堅どころに増えていけば、それぞれの職場で少しずつ変化が生まれることは間違いないと思われる。ただ、難しいのは最初の一歩、パイオニアとなった職員が、逆風の中でどこまで志を貫徹できるか、という点であろう。実際、本書を読んでやる気が生まれても、それを実行に移し、かつ維持するには並々ならぬ意志と信念の強さが求められる。問題は、公務員の改革がそうした属人的な資質や意欲に頼らざるを得ないこの現状そのものであるような気がする。

ところで、本書は77個もの項目が並んでいるだけあって、相反すると思われる点もいくつか見受けられる。例えば、8番目の「住民に『答える』より『応える』努力をする」では、一人暮らしの老人に切手購入や投函など郵送手続きが大変だ、と言われ、始業前にその方の家に寄って書類を渡し、後日再度、始業前にその家を訪れて書類を受け取って出勤した、という職員の例が出てくる。著者も言うとおり、これは「いいお話」である。が、当然ながらこういうサービスは職員の通勤事情にも左右され、誰にでもできるサービスというわけにはいかない。ところが、ちょっと前の6番目では「マニュアルがあればバラつきが減る」として、マニュアルを作って業務を標準化し、職員によってやり方にばらつきがでないようにすべき、と書いているのである。「以前、役所の人はここまでやってくれたのに、どうして今はできないんですか! 人によって考え方もやり方も違うのですか!」というセリフが、(克服すべき)クレーム例として出てくるのである。

いったいどっち? と言いたくなる。やり方をマニュアル化するということは、誰にでもできるとは限らないサービス(たとえば、前の例に出てくる職員のような)は「してはならない」ことになるはずだからである。このあたり、どちらも「正しい」だけに始末が悪い。まあ、しょせん仕事というのは矛盾を抱えながらやるものだ、と言われればそれまでであるが、著者自身が矛盾に自覚的であるようには感じられなかった(この箇所に限らず)のは残念であった。