自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【379冊目】桂木隆夫「公共哲学とはなんだろう」

公共哲学とはなんだろう―民主主義と市場の新しい見方

公共哲学とはなんだろう―民主主義と市場の新しい見方

サブタイトルは「民主主義と市場の新しい見方」。その名の通り、「民主主義」と「市場」との関係において、公共性というものをあらためて位置づけようとする内容となっている。

著者が拠って立つ基本的なスタンスは、(リベラリズムコミュニタリアニズム等に対して)ヒュームの「健全な懐疑主義」をベースにした、モラルサイエンスの公共哲学である。これは著者によれば、「政治学や経済学、法律学や社会学などの諸学を横断し、人間についての総合知を求めようとする試み」であり、「多様な価値的ないし規範的な観点から問題を扱う=多様性の中におけるバランス感覚を問う」という特徴をもつ発想である。この立場からすると、公共性を支える絶対的な価値といったものはそもそもありえないのであって、むしろ相互に矛盾し、ぶつかりあう価値観の相互関係、そのジレンマとバランスの中から、公共性そのものが「生成してくる」ということになる。

本書の後半部分はこうしたモラルサイエンスの公共哲学をもとに、「他者」「民主主義」「市場」「寛容」など、公共性が問われる重要なトピックをひとつひとつ丁寧に解説していくものとなっている。特に市場については、市場を単なる経済的側面だけでなく、一種の共同体であり、かつ複数の共同体を媒介し、他の公共部門を補完するという側面から捉えるものであり、市場という存在自体の役割に見直しを迫るものとなっている。

他にもいろいろ示唆的な部分が多い一冊なのだが、全体として、極端な懐疑主義や価値相対主義の迷路にはまり込まないように気をつけながら、多様な価値観をどう捉え、バランスを取っていくかという難しい問題に取り組むものとなっており、そのスタンスは大いに参考になる。また、日本社会における公共性の、その行き着くところとして、日本古来の神仏習合的な思想が暗示されているところも面白い。最後に、この種の本としては例外的といってよいほど分かりやすく明晰な文章で書かれていることは特筆しておくべきであろう。