自治体職員の読書ノート

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【373冊目】G・ガルシア=マルケス「予告された殺人の記録」

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

小説の冒頭、いきなり「自分が殺される日、サンティアゴ・ナサールは・・・・・・」と始まる。そして、「サンティアゴ・ナサールが殺される」ことが執拗に明示されつつ、小説は突然「殺害後」に飛んだり、また殺害前に戻ったり、さまざまな人の視点を移り変わったりするのだが、常に中心には「サンティアゴ・ナサールの殺害」がある。この小説は、その周りを渦巻きのようにぐるぐる回りながら、最後はまさにその殺害のシーンで幕を閉じるのである。

舞台は古い因習がいまだに幅を利かせている小さな田舎町。そこにハンサムなバヤルド・サン・ロマンが訪れたことから、落ち着いていた人間関係に変化が起きる。サンティアゴ・ナサールの死は、いわばその連鎖反応の結果として起きたともいえる。なお、「訳者あとがき」では、バヤルドとアンヘラの婚礼を、英雄に生贄をささげる共同体の儀式に模した上で、その儀式が穢れたことで失墜した共同体の名誉を回復しようとする行為がサンティアゴ・ナサールの殺害であると構成しているが、なるほどと思わせられた。

本書を読んでいて感じたのは、この小説が実に「物語」になっていること。それも紙に書かれた物語ではなく、口伝えで広まる噂や伝承のような、「語り」によるものなのである。時系列どおりに話が進まず決定的な瞬間をラストにもってくるところや、「さも聞いたかのように」いろんな人の口ぶりを借りながら徐々に事実を明らかにしていくところなど、まさに口伝の手法であろう。

驚いたのは、この小説のもとになっているのが現実に起きた事件であるということ。逆にいうと、実際に起きた事件を共同体の「物語」として再構成したのが本書であるということになる。実際に起きた事件をこういう形で小説化できるなんて・・・・・・。