自治体職員の読書ノート

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【372冊目】佐藤進「日本の自治文化」

日本の自治文化―日本人と地方自治

日本の自治文化―日本人と地方自治

地方自治」という視点から、近世〜現代にかけての日本の歴史を辿った一冊である。

500年前の山城国一揆からはじまるが、特に充実しているのは、現在の自治制度の基礎がつくられた明治時代から近代までの記述である。本書がユニークなのは、単なる制度の変遷を追うのではなく、当時の新聞記事から時評、さらにはエッセイ、小説に至る多彩な文献を取り上げ、日本人の意識レベルでその時代の自治のありようを追っている点だろう。例えば今日の市町村制度の制度的ルーツである市町村制が(現代の地方自治論者からはあまり高い評価を得ていないようであるが)当時の新聞や世論からは喝采をもって迎えられたこと、当時の地方自治をめぐる政治小説が存在すること(須藤南翠「緑蓑談」)、森鴎外田山花袋幸田露伴などに地方制度や都市論をめぐる文章があることなど、初めて知ることばかりであった。

また、試行錯誤を繰り返しながら地方自治制度を築き上げてきた先人達の業績について、詳細に解説しているのも特徴といえる。自治制度の設計にも密接に関わった明治維新の立役者たちである伊藤博文山県有朋らにはじまり、新潟県令の楠本正隆兵庫県令の神田孝平ら、あるいは現在の大阪や東京の基礎を作った関一、後藤新平など、まさに地方自治の草創期におけるスタープレーヤーたちである。その進んだ見識は、ともすれば現代の首長を凌駕するものがある。

現代の地方制度論というと、主として欧米の理論をそのまま日本に持ち込んで実行しようとするケースがあまりに多く、そういう論者に限って、うまくいかないと「日本人の自治意識の低さ」や「日本人の後進性」「村意識の強さ」などを非難する。しかし、そもそも日本に自治制度を導入するのなら、まずこれまでの歴史を振り返り、日本人の自治意識や自治の現状を知った上で、それに合った制度設計をするのが順序というものであろう。地方自治をめぐる本がこれだけたくさんある中で、本書のような本が稀有であるということ自体、そうした「自治の歴史認識」に対する意識の希薄さを物語っているように思えてならない。