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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【371冊目】佐藤多佳子「しゃべれどもしゃべれども」

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

のっけから私事で恐縮だが、私は小学生の頃、落語にはまっていた。4年生から6年生まで。聴くのはもっぱら古典落語のカセットと「笑点」だが、恐ろしいことに創作落語と称した落語のゲテモノのようなやつをクラスのみんなの前でやっていた。好き者が他にも数人いたので、先生に時間を作ってもらって、黒板の前に机を乗せて上に座布団を敷いて即席の高座をつくり、前もって台本を書いて練習したバカ話をやらかしたのだ。ウケた時の快感も、笑いが滑った時の空恐ろしい沈黙も、その時身をもって知った。その後はすっかりお笑い系から遠ざかり、テーブルトークRPGという、これまた得体の知れない世界にはまっていったのだが・・・・・・。

というわけで、この小説は他人事じゃなかった。主人公の二ツ目噺家「三つ葉」のスランプは特に身に沁みた。また、三つ葉のもとに落語を習いに来る個性的な面々の中でも、11歳の村林のことが特に印象に残った(私とは全然キャラが違うが。私はあれほど口が達者でもないし村林のような矜持もなかった)。個人的なノスタルジーに浸って読んでしまった。そういえば最近、全然落語を聴いてない。

個人的な思い入れはともかく、とても面白い小説であることは確かである。何より文章が絶妙である。噺家の言葉そのまま、笑いや涙をバランスよく取り入れつつ、小気味の良いテンポでとんとんと話が進む。それに、三つ葉をはじめとした登場人物がどれも魅力的。落語を習いに来る3人はもとより、師匠の小三文、茶道の先生をしているばあさんなど、脇役がぴりりと締まっている。最後はやや村林の問題に力点が置かれ過ぎのような気もするが、落語の力、笑いの力を感じさせ、ほんのりと温かい気持ちにさせてくれる。

それにしても、佐藤多佳子の本には良いタイトルが多いと思う。「しゃべれどもしゃべれども」なんて、簡単そうでなかなか考え付くものではない。他にも、良いなと思うのは「神様がくれた指」「おかわりいらない」「黄色い目の魚」そして「一瞬の風になれ」のスピード感とさわやかさ! お見事である。