自治体職員の読書ノート

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【368冊目】サン=テグジュペリ「人間の土地」

人間の土地 (新潮文庫)

人間の土地 (新潮文庫)

危険と背中合わせの職業飛行家としての日々や、そこで体験した様々な出来事を踏まえて、人間と自然についてサン=テグジュペリが記したもの。小説ではないが、さりとてエッセイというほど気楽ではまったくない。あえて定義するとすれば、「文学」としか言いようのないものである。

空高くから、あるいは地表からでも飛行機乗りの眼で見た自然の荘厳な美しさと大きさが言葉を尽くして描かれる。その美しさは言語を絶するものがある。しかし、宝石のような、と形容するのはちょっと違うように思う。むしろそれは、光り輝くような美しさの裏に硬質なきびしさを秘めた、岩肌に埋まった鉱物のような輝きである。自然の冷厳と美がここでは完全に一体のものとなっている。

しかし、読んでいてもっとも心揺さぶられるのはやはり、その巨大な自然の前にあって無力ではかない人間たちの、そのはかなさゆえの尊厳の輝きである。不安定極まりない当時の飛行機に乗って郵便物を運ぶ彼ら職業飛行家たちの、何と凛として誇り高いことか。人間という卑小な存在が放つまばゆいばかりの輝きを、ここまで書き切った作家を私は他に知らない。特に本書の白眉は、サハラ砂漠の真ん中で飛行機が墜落した後の、サン=テグジュペリと同乗者プレヴォーのサバイバルのすさまじさと、その中できらめき、砂漠を彩る言葉の見事さである。ここでも、もっともシリアスでもっとも危機に満ちた場面と、砂漠のありようを綴る美しい文章が、まったく自然に調和している。

とにかく、いくら言葉を連ねてもむなしいばかりの、奇跡のような美しく尊厳に満ちた一冊である。これほどまでに、言葉のひとつひとつが誇りと生命に満ちて屹立し、同時にきらきらと輝いている本など他にはない。堀口大學の訳もすばらしい。人間の魂の奥底に触れる、最高の名著の一冊である。