自治体職員の読書ノート

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【367冊目】網野善彦・上野千鶴子・宮田登「日本王権論」

日本王権論

日本王権論

日本の「王権」すなわち「天皇」をめぐる鼎談。古代から現代に至る日本の歴史を「天皇制」という軸で論ずる。

面白いのは、日本中世史を専門とする網野善彦と、民俗学者宮田登と共に天皇制を論ずるのが、社会学者でありフェミニズムの旗手的存在である上野千鶴子であるという意外性である。しかし、この意外性が本書では実にうまくはまっているのだ。得てして日本国内の歴史に目が行きやすい天皇制というテーマに、上野は構造主義的側面からの分析や文化人類学の知見に基づく諸外国・異文化の類似例をぶつけることで、議論に格段の広がりと多面性が生まれているのである。

古代論では天皇の由来として「ヨソモノ」としての王という可能性が面白い。また、中世では後醍醐天皇という異色の天皇が存分に語られるが、興味深いのは、後醍醐天皇が敗れたことによってむしろ天皇制は延命したのではないか、という指摘である。南朝が勝利を収め、後醍醐天皇という希代の「王」が親政を始めたとすると、かえってその死後に天皇制は日本の支配権ごと失われていたのではないか、というのである。

このことは、そもそも日本の王権は「祭司王」としての天皇と「世俗王」としての将軍などが両立することで成り立っていたことを意味する。そして、この両立のバランスが保たれているうちは天皇はむしろ安泰であり、これらを統合して天皇が「世俗王」の権力をも握ると、かえって天皇制は危機を迎える(そのひとつの例が明治〜太平洋戦争の天皇中心の統治システムであろう)。その意味では、戦後の憲法天皇の位置づけをなかなか絶妙に果たしているといえるのではなかろうか。

とにかく、天皇を語ることは日本を語ることだということが良く見えてくる一冊である。眼の覚めるような指摘も多く、なかなか楽しめた。