自治体職員の読書ノート

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【362冊目】今井照「自治体のアウトソーシング」

自治体のアウトソーシング

自治体のアウトソーシング

多くの自治体がアウトソーシングを検討する場合、その大きな動機となるのはおそらく「コストダウン」と「専門性」ではないかと思う。前者は自治体の財政難、後者は自治体業務の専門化、高度化が背景にあるわけだが、本書で論じられているアウトソーシングは、こうした現実面にも触れつつ、そうした実際面とはかなり異なる、理念面からのアウトソーシング論を展開するものとなっている。

そもそも理念型としていえば、行政自体が市民の信託に基づく一種のアウトソーシングであり、その行政がさらに外部に業務を委託したりする、つまり一般的な意味でのアウトソーシングを行うにあたっては、市民からの信託の内容を再構成することを意味する。

特にその場合、問題となるのが「公権力の行使」という要素である。従来は、公権力の行使こそが行政に専属する核心的な要素であり、これこそ行政が主体として担うべき業務であるとされてきた。ところが、指定管理者制度や駐車違反取締りの民間化など、実際の動きはこのラインを軽々と超えてしまっている。本書が大きな力点を置いて論じているのが、この「公権力の行使」にまつわる論点整理である。この議論は、アウトソーシングの限界を論じるとともに、行政とはそもそも何か、公務員でなければ担い得ない業務はどこまでなのか、という、きわめて根本的かつ重要なテーマを扱うものである。本書は、アウトソーシング論であると同時に(必然的に)行政の本質論ともなっている。

また、理念型としてのアウトソーシングを考えた場合、その望ましいあり方として挙げられているのが「社会分権型アウトソーシング」である。これは要するに、信託者である市民への一種の「大政奉還」であり、市民が担い手であり、監視者である(当然、受益者でもある)ような行政のあり方を描くものとなっている。その先にあるのは、行政自体の「社会化」であり、大半の行政業務を担う非・公的セクターの「役所法人」というアイディアである。こうなると、従来の役所とか公務員とかいう存在はそもそも社会の中に溶解し、一部の公権力行使に従事するのみとなる。この発想は一見奇抜に思えるが、本書でも挙げられている福島県矢祭町の「第二役場」構想など、決してありえない話ではない。

本書は通常の意味でのアウトソーシング論として読むと肩透かしを食わされると思う。むしろ、これは「公務員でなくとも担い手となりうる」アウトソーシングの対象業務を考えることで、返す刀で行政を斬る、市民主体のきわめてドラスティックな「行政大政奉還論」であると読めた。