自治体職員の読書ノート

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【356冊目】井上達夫「自由論」

自由論(双書 哲学塾)

自由論(双書 哲学塾)

講義形式(といっても形だけで、文章はガチガチの「書き言葉」)による、リベラリズムの立場からの自由論。

文章はやさしくないが、議論の筋道はとても分かりやすい。最初に「自由の秩序」というテーマを提示し、まず自由について論じる中で、自由の概念それ自体にひそむ袋小路へと読み手を導いていく。そこでひるがえって「秩序」について議論を展開する。そこで展開されるのが、「国家」「市場」「共同体」という「秩序のトゥリアーデ」。著者は、この3つのチェック・アンド・バランスが自由を担保する秩序構造となるとした上で、これらのいずれかが他を圧し、自由が侵害されるケースとして「全体主義」「資本主義」「共同体主義」という「専制のトゥリアーデ」を提示する。

さらに、自由の秩序の相対性や世界秩序の可能性に触れた上で、「場外補講」として、実は自由の背景にあって自由の根拠となるのは「正義」である、とする。この正義は「普遍主義的正義理念」であり、その意味するところは「普遍化不可能な差別の禁止」であると著者はいうのである。リベラリズムというと自由を絶対視する思想と思われがちであるが、著者は「リベラリズムの根本概念は正義である」とした上で、ロールズなどの正義論を批判的に取り上げつつ、自由と正義との関係を例証していく。

決してやさしい内容ではないが、自由そのものが絶対的に尊重されるべきなのではなく、そこには必ず正義という「正当化根拠」もしくは「担保」が付されているという点は重要である。また、「秩序のトゥリアーデ」「専制のトゥリアーデ」については、それぞれの国家ごとにその置かれている状況や問題点を明らかにするためのツールとして非常に有用であるように思う。

なお、著者は日本社会を「共同体」優位社会と捉え、本来の公共的役割をもった「国家」等の強化を主張している。ここでいう「共同体」に会社を含めているのが面白いところであるが、日本は会社などの中間的団体が強く、しかも多くの共同体と国家がいわば癒着状況にあるのが日本の現状であり、両者を分離して、きちんとしたチェック機能を相互に果たすようになるべきであるとする。このあたりは人によって賛否があるところだろう。