自治体職員の読書ノート

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【349冊目】大江正章「地域の力」

地域の力―食・農・まちづくり (岩波新書)

地域の力―食・農・まちづくり (岩波新書)

「地域の衰退」「過疎と過密」といった言葉が、いまやすっかり定着してしまった感があるが、本書はそうした中、農業や林業、商店街や公共交通などを通じて「地域おこし」を成功させた人々の試みをまとめた本である。

「葉っぱビジネス」で有名な上勝町LRTを活用したまちづくりに取り組む富山市などの比較的「有名」なトピックから、地産地消を学校給食で取り組む今治市、都市ならではの農業政策を展開する練馬区横浜市など、さまざまな事例が取り上げられているが、特に「農業」を中心にいわゆる第一次産業が多いのが特徴。公害や過度の開発等の弊害を生みつつ第二次産業を中心に近代化し、サービス業等の第三次産業にシフトしてきた日本で、いわば原点回帰のようにして「農」が注目を集めているのが面白い。とはいえ、本書で取り上げられている「農」はいわゆる国主導の大規模農業というより、健康と環境に配慮した有機農法や低農薬農法であり、そのあたりに時代の変化を感じる。

いろいろなケースを読んで共通していると思うのは、どの地域でもうまくいっている取り組みの根っことなっているのが、ひとりからせいぜい数人のキーパーソンの存在であり、彼らの持つ「思い」が核になっていることである。そして、彼らの思いが周囲に伝わり、住民や行政を動かし、つなげていくことで、実際に地域が変わり始める。

そのシンプルだがダイナミックな「変革」は、おそらくは誰にでもできることではない。特に取り組みの初期において、中心となっている人々に相当の負荷がかかっている。それは周囲の無理解であったり、既得権益をもつ人たちの妨害であったり、行政の硬直性などが原因となるわけだが、それを乗り越え、初志を貫徹するだけの強さが必要なのである。いいかえれば、そのあたりを的確に側面からサポートできるための仕組みを、行政なりNPOなりが担うことができれば、もっとたくさんの地域が、その地域ならではのユニークなかたちで変わってくるのではないか、と思える。