自治体職員の読書ノート

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【346冊目】森 啓「新自治体学入門」

自分の軸足をどこに置いたらよいか、最近ちょっと迷っている。その中で、前に読んだ「自治体学入門」を思い出し、自治体学会はどうだろうかと考えた。いろいろ調べているうちに、この本が出ていることを知った。そこで、いわば様子伺いで手に取ってみた。

本書の良い点はコントラストがはっきりしていることである。「国家学」に対して「自治体学」、「国家法人理論」と「政府信託理論」、「統治概念」と「自治概念」、「住民」と「市民」、「地方公務員」と「自治体職員」などを対比的に取り上げて論じているため、勢いに任せて書いているようで内容がすっと頭に入ってくる。

類書ではとかく曖昧にされやすい「住民」と「市民」の違いについても、両者を「理念の言葉」と割り切り、「市民」を「公共社会を管理する自治主体」、「住民」を「行政が統治し支配する客体」としたうえで、「実在するのは『住民的度合いの強い人』と『市民的要素の多い人』の流動的混在」としており、いわば同一人の中に「住民」と「市民」のグラデーションを認めている。非常に分かりやすい。

内容は極端なまでの「市民自治主義」であり、松下圭一氏の思想を汲むきわめてリベラルなものとなっている。その分、理念先行で具体性の乏しさがいちじるしい。特に、市民自治と言い、協働と言いつつ、その方法論が住民投票によるものくらいしか挙げられていなかったのは気になるところである。住民投票が「市民」自治の方法というのもよく分からない(だったら「住民自治」で良いではないか)。住民投票に先立つ議論を確保する方法論も、挙げられているのは情報公開くらいで実に貧しい。現状への批判は鋭いが具体的な方法論となるとお寒い限り、というのはいかがなものか。