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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【342冊目】村田厚生「ヒューマン・エラーの科学」

本書は人間の犯すエラーというものを紹介・分析し、処方箋を示した一冊である。面白いのは国内外で実際に発生し、世間の注目を集めた事故(病院での患者取り違え事故やチェルノブイリチャレンジャー号の爆発事故から福知山線の脱線など)をふんだんに取り上げ、ヒューマン・エラーの観点から分析するところ。特に、どの事故でも直接の原因とされるエラーばかりが注目されやすい中で、周囲の環境や組織の管理体制にまで言及し、複合的で段階的な原因によって事故が発生している点は印象的。

そもそも人間はエラーを犯すもの、という前提を受け入れることが、対応策の第一歩であるらしい。そこから二つの方向性が生まれる。ひとつは、人間の生理学的・心理学的・形態学的特性を良く知り、エラーの発生可能性をできるだけ低くすること。そのためのさまざまな工夫が本書では豊富な図入りで紹介されており、例えば施設のデザインやパソコンの画面構成を考えるにあたり参考になる点が多い。もうひとつは、それでも起きうるエラーに対して被害を最小限で食い止める仕組みを作っておくこと。このふたつは一見両立しないように見えるが、実は現実に即したリスク管理を考えると、むしろ車の両輪である。

近年、畑村洋一郎氏の「失敗学」をはじめ、本書のようにヒューマン・エラーを科学的に捉え、現実的にその対応策を考えようとする動きが目立つように思われる。その背景にあるのは、むろん国内外で近年立て続けに起きているヒューマン・エラーに起因する大事故であり、あるいは事件である。機械化が進む中で、むしろ機械を扱う人間のエラーが機械に作用して被害を大きくしているのは皮肉であるが、そのことを(ようやく)正面から見つめる動きが出てきたことは大変素晴らしいと思う。