自治体職員の読書ノート

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【341冊目】アマルティア・セン「人間の安全保障」

人間の安全保障 (集英社新書)

人間の安全保障 (集英社新書)

「人間の安全保障」という概念は、分かったようで分からないところがある。重要なのは、それが個々の人間に着目し、それぞれの個人をさまざまな外的危険から守ろうとするものである、ということであるらしい。センは、人間の安全保障が確保されるための重要な要素として、次の4点を挙げている。

  • 「個々の人間の生活」に重点を置くこと。
  • 「社会および社会的取り決めのはたす役割」を重視すること。
  • 全般的な自由の拡大よりも、人間の生活が「不利益をこうむるリスク」に焦点を絞ること。
  • 「より基本的な人権」を強調し、「不利益」に特に関心を向けること。

ここから読み取れるのは、人間の安全保障を、通常の「人権論」や「自由論」よりも相当に焦点を絞り込んだものとして構想されているという点である。むろん、別のところでセンが主張しているような「人間的発展」(自由のもとに潜在能力を活用できること)などの要素も重要であるが、それはあくまで人間の安全保障という喫緊かつリアルな課題の前では、それを補完するにすぎない。

本書はセンの小論集であって、「人間の安全保障」に関する上のような説明だけでなく、グローバル化民主化、あるいは核開発や環境など、幅広いテーマを扱っている。面白かったのは、グローバル化民主化などについて、「西洋化」とイコールではないと主張しているあたりであった。グローバル化については、かつては東洋(特に中国やイスラム圏)の科学や文化が西洋に伝播したのであり、現在、西洋からグローバル化の名の下に広まりつつある制度や文化ももともとは東洋にルーツをもつものが多い。また、民主化について言えばそれは必ずしも西洋の専売特許ではなく、日本の「17条の憲法」やインドのアクバル大帝の寛容な政治などが東洋にもすでに存在しているという。むしろこれらの点については、中世においては西洋のほうが後進であるというのである。