自治体職員の読書ノート

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【329冊目】山口定「市民社会論」

市民社会論―歴史的遺産と新展開 (立命館大学叢書・政策科学)

市民社会論―歴史的遺産と新展開 (立命館大学叢書・政策科学)

「市民社会」に関する戦後日本の議論や、西欧で新たな展開を見せる市民社会論をそれぞれたどりながら、著者自身の市民社会論を披瀝する一冊。

前半は主に国内外の「市民社会」に関連する思想の系譜をたどっている。日本における議論では、大塚久雄丸山眞男、さらには松下圭一や平田清明などの、戦後日本における政治思想状況のなかの市民社会像をたどり、西欧においては、マルクスグラムシなどの古典的な議論から、ハーバーマス、コッカ、サラモンなどを概観しており、公共性理論や市民社会論という切り口で政治思想の流れを眺めることができるようになっている。

さらに、後半では「新しい市民社会論」として、デモクラシー論やアソシエーション論をからめ、さらには公共性に関する最先端の論議を一方に提示しつつ、市民社会に関するこれまでの膨大な議論を整理してみせている。さらに、単なる思想のカタログにとどまらず、それらに対する評価や批判を述べることで著者自身の考え方を提示している。

もっとも、市民社会論については「市民社会」という言葉の定義からして論者によって千差万別であり、市民概念そのものについてさえ根深くややこしい議論が存在する。しかし、著者は市民社会がどのようにあるべきかという結論だけを他者に対する批判のなかで小出しにするばかりで、批判の中に、著者のもつ結論に至る理路がなかなか見えてこない(著者の「市民社会」に対する考え方がはっきり出てくるのは終盤になってから)。そのため、読んでいるとなんだかいきなり「これが正しい市民社会論だ」という結論が押し付けられているような印象があった。私自身は、市民社会というものの存在自体、あるいは市民という選別的、選択的な要素を含む概念を無条件に導入してよいとは思わないのだが、それに対する反証を、著者自身の言葉で明確にいただくことはかなわなかった。おそらく、「そんな当たり前のこと」はいちいち論証する必要もないことなのだろう。