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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【323冊目】本谷有希子「遭難、」

遭難、

遭難、

タイトルからはまるで山岳小説であるが、なんと職員室を舞台にした戯曲。ちなみに作者は、本作で鶴屋南北戯曲賞を最年少受賞している。

冒頭から場面は緊迫している。息子が飛び降り自殺未遂で寝たきりになってしまった母親が、担任の教師を執拗に責めている。では教育問題が絡んでくるのかと思いきや、話は思いもよらない異様な展開を見せる。中心となるのは、一見しっかりしていると思える女教師、里見である。自身の中学時代の経験をトラウマとしてそれに寄りかかり、ねじくれた性格を正当化するいやな女。そのありさまを作者は機関銃のような会話の応酬の中でこれでもかとばかりに描き尽くす。そしてラスト、呆然とたたずむ里見の姿のうちに、「遭難」というタイトルの意味が突然明らかになる。

わずか5人の登場人物、職員室という固定した場面。戯曲の基本を忠実に守りつつ、作者はその中に強烈なブラックユーモアを織り交ぜ、さらに人間心理のすさまじい暗闇を見事にあぶりだしてみせている。前に読んだ「ぜつぼう」も面白かったが、本書は作者の本領である戯曲であるだけに、迫力も凄みも段違い。ぜひ一度、この人の演劇を客席で観てみたい。