自治体職員の読書ノート

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【319冊目】ロード・ダンセイニ「魔法使いの弟子」

魔法使いの弟子 (ちくま文庫)

魔法使いの弟子 (ちくま文庫)

スペインを舞台にした幻想的なファンタジー。錬金術を学ぶため魔法使いに弟子入りした青年ラモン・アロンソが主人公。この魔法使い、ラモン・アロンソに魔法を教える代償として影を奪うのだが、実は魔法使いの城にはもう一人、父子の生命と引き換えに影を失ったアネモネという老掃除女が登場する。二人の「影のない者」と魔法使いの影を巡る駆け引きが、本書のひとつの軸となっている。

一見、影などなくても困らなさそうなものであるが、これがないばかりにラモン・アロンソは出かけた村から石をもて追われてしまう。影がない限り、彼らは魔法使いの下でしか暮らせない。しかも、影は魔法使いの支配下にある。そこで、ラモン・アロンソは魔法使いに気づかれぬよう、影を取り戻そうとするのである。

「何かを得るには何かを失う」という「ルール」はいろんなファンタジーや昔ながらの民話、童話で登場するが、そこに「影」を持ってきた発想が素晴らしい。しかも、現実の世界では人間が影を従えているのに対して、魔法の法則では影こそがあるじであり、主導権をもつのである。

ほかにもこの小説では、さまざまな法則性やルールが世界に埋め込まれ、独自の幻想的な世界を形成している。そして、こうした独自の法則性に貫かれた世界観こそがファンタジーの魅力であり、その中で知恵をめぐらせ、狡知のかぎりを尽くして魔法使いから影を奪還しようとするラモン・アロンソの行動に価値をもたらすように思われる。それと、詳しくは書かないが、ラストがまた素晴らしい。寓話的で幻想に満ちた、秀逸なファンタジー。ちなみに、前作「影の谷年代記」に続くシリーズでもあるらしく、影の谷の公爵がかなり重要な役回りで登場する。