自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【306冊目】西條奈加「烏金」

烏金

烏金

江戸深川を舞台に、高利貸しの婆さん「お吟」とその手伝いを買って出た「浅吉」の交流と活躍を描く異色の時代小説。

冒頭、お吟が借り方のお侍に返済を迫るシーンから引き込まれた。うまい。この人の小説を読んだのは本書が初めてだが、キレのある会話、四季の風物を巧みに取り入れた江戸の情景描写、コクのある人物造型から小気味良い話の筋の運びまで、どれをとっても良い意味でソツがない。特に味があるのはお吟である。一見、ただの強欲な因業金貸しの婆さんなのだが、その無愛想で辛辣な口調の裏に、人の情けと人生の厚みがちらりと覗く。ほかにも味のある脇役が揃っていてなかなか楽しい。ただ、お妙やお照などのヒロイン系の扱いはやや中途半端な印象だった。

また、浅吉のやった取立ての工夫がなかなか面白い。ただ厳しく取り立てるお吟に対して、浅吉は毎日わずかな利子を取りに行くことで親近感を持たせたり、何人かの借り方や関係者をコーディネートして金を産む仕組みをつくったりして、相手に好かれつつ取り立ての実績を上げるというやり方で実績をあげる。例えば、かっぱらいやスリで生計を立てていた浮浪児の集団(この集団、特に頭目の勝平がまた素晴らしいのだが)を手伝いに使い、借金のかさんだお武家の内職で稲荷寿司を作って売るなどというアイデアを考え付くのである。

作者は「金春屋ゴメス」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞した方らしい。細かいところで気になる点がないわけじゃないが、とにかく勢いがあって小気味良く、江戸下町の人情がほんわかと温かい、どこか宮部みゆきを思わせる楽しい時代小説である。