自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【305冊目】秋山眞芸実「ムラセ係長、雨水で世直し!」

ムラセ係長、雨水で世直し!

ムラセ係長、雨水で世直し!

いや、これは図抜けた「熱狂の人」である。

ムラセ係長こと、墨田区環境保全課の村瀬主査。知る人ぞ知る雨水利用のパイオニアであるが、それだけの人ではないと、本書を読んで始めて知った。環境衛生監視員として、おしぼり問題、ソーラーシステム導入、そして雨水利用と、現場で気付いた問題点に貪欲に食らいつき、それを徹底的に深めて、先例や慣例にとらわれず、画期的な解決法を次々と見出していく。そのひとつの到達点が、世界中から視察が訪れるまでになった雨水利用であろう。

さらに、雨水利用というと村瀬氏ばかりがライトアップされているが、周囲で共に頑張り、あるいは支えてきた心ある自治体職員や町の人々、新聞記者などの存在も見逃せない(個人的に知っている人もでてきて「おやっ」と思った。若い頃はこんなこともしてたとは・・・)。特に、人見、佐藤などソーラーシステム研究会の面々は、この沈滞した世の中や硬直しきった行政の中にあって、さながら梁山泊を思わせるエネルギーと活気がある。そして、そのエネルギーがどんどん回りに伝染し、世の中を少しづつ動かしていくのは実に痛快であり、同じ自治体職員としては、なまぬるい仕事ぶりを叱咤されつつ、こんなことまでできるんだよ、と勇気付けられるものがある。この間の「社会を変えるを仕事にする」は読んだ後にずいぶん落ち込んだが、この本はその落ち込みをひきずる中で射してきたかすかな光明に思えた。

本書から教えられたことは実に多い。とにかく大事なのは、現場にいること。そこで起きていることに気付くこと。そのためには感度の良いセンサーを常に張り巡らせること(役所生活を漫然と長く送っていると、何よりこのセンサーが錆び付くような気がする)。気付いたらその問題点に真剣に向き合うこと。頭を絞り、分からなければ人に聞くこと。聞けるような人を日ごろから見つけておくこと。そして、解決方法を見つけたらとにかく試すこと、実践、行動すること。失敗を恐れず、失敗から学ぶ姿勢をもつこと。当たり前のことばかりだが、すべてを実践するとなるとなかなかできるものではない。ムラセ係長やその仲間の方々が凄いのは、これらをことごとく実践している点である。その実践の末に見えてきたのは、世界トップレベルの環境思想。いやあ、なんともカッコいい。