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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【301冊目】吉田修一「ランドマーク」

ランドマーク (講談社文庫)

ランドマーク (講談社文庫)

最近建てられる大規模な建築物には、どうも違和感を感じるものが多い。再開発地域や湾岸エリアなどに林立する奇妙なフォルムのビルやホール、コンベンションセンターなどの多くは、不思議と揃って無機的で、デザインは優れているのだろうが温かみや人間味を感じられないような気がしてならない。オフィスビルだけならまだしも、ホテルやマンションにもそうした前衛的な建物が見られる。

本書に登場するねじれたらせん状のビルはもちろんフィクションであるが、その描写には、普段からうすうす感じていた違和感のありかにつながるものを感じた。ああした光景になぜ違和感を感じるかといえば、そこでは人間の存在がほとんど無視され、呑み込まれてしまっているからではなかろうか。本書は、そんなビルの建築現場に関わる二人の男性、設計士の犬飼と鉄筋工の隼人に焦点をあて、ゆがみ、ねじれた奇妙なビルがバベルの塔のごとく聳え立っていくありようと、この二人の生活や精神が次第にきしみ、ゆがんでいく過程を、いわば二重写しに捉えているように思われる。「あえてイライラするため」貞操帯をつけているという隼人、会社の事務員と浮気しているうちに妻が「マンションの壁じゅうに動物の毛皮を貼り付けたまま」実家に帰ってしまった犬飼。本書は、彼らの心理を交互に、丁寧に追いながらも、ラストではぶっつりと切れるように終わる。残るのは、超高層ビルの異様な外観と、それに劣らず不安とゆがみに満ちた精神のイメージである。

本書は長編としては比較的短い小説だが、意外に多くのファクターが絡まりあっており、それぞれが存在感をもって小説を構成している。しかし、その間からのぞくことのできる、吉田修一の描いた現代の構図には、実に鮮烈でなまなましいものが感じられた。