自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【286冊目】佐藤優「国家の罠」

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

ここのところ新刊を連発している著者の第一作であり、日本外交の第一線から刑事被告人となった側の視点から、逮捕までの経緯や検察とのやり取りなどを詳細に記した本。

犯罪を「作り上げよう」とする検察側との虚虚実実の戦いも面白いが、特に興味深く感じたのは、実は前半部分の、被疑事実となった事件に関連する、著者が関わってきた外交の世界のシビアさである。外交というものが、外交官だけではなく、双方の政府要人から民間企業まで巻き込んだまさに総力戦であることがよく分かる。特に相手国民の特性を深く理解し、その上に立って深い人間関係を作っていくことが外交上の成果に結びついていくという部分は、国と国、組織と組織のやり取りと思われがちな外交が、実は案外ウェットで属人的な信頼関係に基づくというところが面白い。

しかし、本書の白眉はやはり検察官との迫真のやり取りであろう。そして、ここでもやはりものを言ってくるのは人間と人間の生身のぶつかり合いから生まれてくるなにものかである。西村検事という独特のパーソナリティを、著者は冷静に分析し、国際間の情報戦と同じように対処していく。その中で生まれてくる独特の信頼感情は、利害が対立する国家間での外交上の人間関係に生まれてくる感情と酷似しているように思える。だいたい、「国策捜査」などという存在自体が噴飯ものなのだが、そこを割り切ったうえであえてその中に踏み込んで火花を散らす両者の姿は感動的ですらある。そしてその中に、後日「国家論」として結実していく著者の国家観、社会観がリアルなものとして浮かび上がってくる。

それにしても、一種の暴露本なのでしょうがないのだが、外務省の人間関係を中心に、とにかく役人の実名がバンバンでてくる本である。外務省も、恐ろしい人間を外に出してしまったものである。