自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【284冊目】菅谷実・金山智子編「ネット時代の社会関係資本形成と市民意識」

最近続けて読んでいる「社会関係資本ソーシャル・キャピタル」がらみの一冊。この間読んだ「きずなをつなぐメディア」と同じく、インターネットとの関係の考察であるが、こちらは複数の論者のものをまとめた本。「きずな・・・」の宮田加久子氏も一章を担当している。基本的な主題となっているのは、タイトルどおりなのだが、市民意識社会関係資本の形成がインターネットによってどのように促進され、あるいは阻害され、左右されているか、というテーマである。そのことを本書は、理論面やこれまでの研究、あるいはいくつかの自治体でのケースを通してさまざまな角度から検証し、論じている。

個人的にきわめて興味深く読んだのは、第2章「市民と行政との協働による地域情報化」で挙げられた育児支援サイト2つの実例(札幌市厚別区の「KA・YELL」と浜松市の「ぴっぴ」)。本書の内容を知らずに、できあがったサイトだけをみると、とても分かりやすく使いやすそうとの印象しか持たないであろうが、実はその裏に行政と市民の、未知の世界に足を踏み出そうとする前の懸命な模索と試行錯誤、お互いの垣根を越えたパートナーシップがあったとのこと(実はどちらのサイトも本書を通じて初めて知ったのだが、本当にすごく充実していてびっくり。行政だけでは絶対にできないクオリティの高さである)。本書では「地域情報化」の文脈でこれらのサイトにまつわる「裏話」が公開されているが、それを超えて行政と市民の協働のあり方を考える上できわめて重要な内容を含んでいるように思う。特に、「協働」は理念や理想だけでは決して実現できないこと、特に一番最初の担当者や当事者らの膨大なエネルギーと(誤解をおそれず言えば)自己犠牲が、いわばロケットの最初の噴射のように必要になってくる(だから、多くの自治体で理念だけ掲げて行政の「仕事」としてやろうとした「市民との協働」はすぐ挫折する)ことは知っておくべきであろう。

他にも「社会関係資本」に対して「創造性資本」を提示したフロリダの考え方を紹介した章や、携帯電話による影響を詳細なデータに基づいて論じた章(著者がNTTドコモの社員さんらしく、出てくるのがドコモのデータばかりなのは笑えるが)など、理論から実践、マクロからミクロまで、多彩かつバランスが取れた本である。ただ、第3章「社会関係資本を築く地域情報デザイン」(河井孝仁氏)だけは残念なことに、おそろしく読みづらい。嫌々書いているような投げやりな文章は、他の方の文章がとても読みやすく論旨明快だっただけに違和感が際立った。