自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【277冊目】ソフォクレス「オイディプス王」

オイディプス王 (岩波文庫)

オイディプス王 (岩波文庫)

まずは筋書きを。

古代ギリシアの王国テバイ。その先王ライオスはかつて何者かによって殺害され、さらにスフィンクスが現れて通りかかるテバイの人々に謎をかけ、答えられない人々を食い殺していた。しかしその時、遠くコリントスの国を出奔したオイディプスがやってくる。彼はスフィンクスの謎かけを解いてテバイを解放し、ライオス亡き後空座となっていた王の座につく。オイディプスは先王の妃イオカステと結婚して何人かの子をもうける。ところがその後、テバイは謎の疫病に見舞われる。テバイを救うために神託が得られるのだが、そこにあったのは、テバイの国内にいる先王ライオスの殺害者を明らかにすべし、というもの。ここまでが前段であり、演劇自体はここから、すなわちオイディプス王がライオスの殺害者を調べ上げようとする時点から始まる。

ところが事態は思わぬほうに進み、おそるべき真相が、薄皮を一枚一枚はぐように徐々に明らかにされていく。真相を問われた者が次々に発する答えは、ライオスを殺したのはオイディプス王自身であるというもの。しかもオイディプスこそ実はライオスとイオカステの間に産まれた子供なのだ。オイディプスは、ライオスが「王は自分の息子に殺されるだろう」という神託を受けていたため、産まれてすぐに山中に捨てられていたのである。しかしそこを拾われてコリントスで育てられていたのだが、オイディプス自身も「父を殺し、母と交わって子を設けるだろう」という神託を得ていたので、そのような事態になることを恐れてコリントスを離れ、テバイにやってきたのである。

そして明らかになったのは、オイディプスは父ライオスの殺害者であり、母イオカステの夫となってこれと交わり、母との間に子をもうけたという最悪の事実。これを知ったイオカステは自殺し、オイディプス王は自らの両目を突き刺して盲目となり、自らをテバイから追放する。

長々と筋書きを書いたのは、そのほかにこの傑作をどう伝えてよいのか分からないからだ。この戯曲がとにかく恐ろしいのは、すべてが終わった後の真相というかたちで、逃れようのない宿命的な事実が徐々に明らかになっていくそのプロセスである。その救いようのない結末の中に、運命というものの圧倒的な力と、それに対する人間の非力さ、卑小さが鮮烈に描き出される。2000年以上前に書かれたとは信じられないほどの、圧倒的な迫力と緊張感。特に、すべてを知ったオイディプスが絶望のあまりわが目を突き刺すシーンはすさまじい。