自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【276冊目】野沢慎司編・監訳「リーディングスネットワーク論」

リーディングス ネットワーク論―家族・コミュニティ・社会関係資本

リーディングス ネットワーク論―家族・コミュニティ・社会関係資本

ネットワーク論やコミュニティ論等の重要論文7本を一冊にまとめた本。

ノルウェーのローカルコミュニティにおける人間関係を分析し、「ネットワーク」の概念をはじめて学問的に定義したとされるバーンズの論文や、同じくネットワーク論の嚆矢である、夫婦の役割と夫婦それぞれがもつ社会的ネットワークを関係づけたボットの研究をはじめ、ミルグラムの有名な「小さな世界問題」論文、人々のつながり(紐帯)の弱さがむしろ強さにつながるとする逆説的なグラノヴェターの論文、広範囲に分散した現代的ネットワークのあり方を「コミュニティ解放」として論じ、従来のコミュニティ喪失論に異議を唱えたウェルマンのイースト・ヨークでの研究、そして社会関係資本に関し、閉鎖性を軸に論じたコールマンの古典的論文と、これに「構造的隙間」を対置したバートの研究と、ネットワーク論やコミュニティ論を少しでもかじった者ならまさに垂涎の重要論文がずらりと並んでいる。さらに、各論文の末尾には訳者による解題が付されており、その論文の全体からみた位置づけや重要性、研究の問題点に至るまでがコンパクトにまとめられているのだからすばらしい。

どれも非常に学ぶ点の多い研究であったが、特にコミュニティに関して従来の悲観的な「コミュニティ喪失」論を批判的に取り上げ、現代ではむしろ多様で拡散的なネットワークによる多種多重的なコミュニティが登場しているとするウェルマンの「コミュニティ開放論」、社会関係資本に関してコールマンやパットナムの強調する「閉鎖性」に対置するかたちで異なるコミュニティ間をブリッジする役割に着目したバートの「構造的隙間」論には、自治体職員としても示唆されるところが多かった。また、面白いのはミルグラムの実験。それによると、アメリカ人は誰でも5〜10人くらい、平均して6人程度の「親密な間柄」でつながっているという。つまり、アメリカ中からアトランダムに2人の人間を選び、中の良い友人や親戚などをたどっていくと、ほぼ「ナカ6人」でお互いがつながるというのである。これにはびっくり。ただ、実験自体は原始的で粗も目立ち、信頼性が高いとはいえないのが残念なところ。アメリカより人口が少ない日本では、われわれは「ナカ何人」でつながっているんだろう?