自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【266冊目】 野田由美子「PFIの知識」

PFIの知識 (日経文庫)

PFIの知識 (日経文庫)

鳴り物入りで日本に導入されたPFIであるが、どうも当初期待されていたほどの劇的な効果(例えばイギリスのような)をもたらした、というわけではないようである。もっとも、何でも右へ倣えで動きがちな日本社会にあっては、今のような漸進的な導入形態がとられていることは、むしろ良いことなのかもしれない。なぜなら、最初イギリスで導入されたこの制度、日本社会の土壌で本来の成果を発揮するには、いろいろ難しい点が多く含まれているからである。その際たる点が、欧米と日本での契約概念の違いであろう。長期にわたり特定の公的分野を民間が担うこととなるこの制度には、かなり厳密な契約形態がとられなければならないはずであるが、それが日本でそのまま可能かどうか。

さて、本書はPFIという制度の基礎をコンパクトに解説した本である。著者は金融機関の立場からPFIの本場イギリスでその業務に携わってきた方であり、その後はプライスウォーターハウスクーパーズに移って日本でのPFI導入に従事している。そのため、イギリスにおけるPFI本来の姿から日本での導入事例までを現場レベルで知り尽くしているといってよく、その知見が本書では非常に分かりやすい形でまとめられている。特にPFIと民営化の相違、ファイナンス面やリスク分担・管理の問題などPFI導入時に生じがちな問題点が網羅されており、実務レベルでの利用価値も高いと思われる。

行政サイドで読んでいて気になったのは、PFIが導入された場合に行政が担うことになる「監視機能」をどう担保していくか、という問題である。特に専門的な機能をもつ施設や事業の場合、その専門性は現場を離れれば離れるほど失われやすく、実効性のある監視を行うことはきわめて難しくなるように思われる。指定管理者制度でも似たような問題がすでにいくつもの自治体で生じているが、特にPFIの場合、契約に基づく行政のコントロールによって質を維持するというのがその意義であるだけに、難しい。理念上は、契約があるのだからそれに沿って監視をすれば良いということなのだろうが、現実に監視機能を果たしていくのにそれだけで十分とは思えない。そのあたり、実際にPFIを導入した自治体ではどのように解決しているんだろうか?