自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【250冊目】佐々木正「いまを生きるための歎異抄入門」

いまを生きるための歎異抄入門 (平凡社新書 (070))

いまを生きるための歎異抄入門 (平凡社新書 (070))

歎異抄の全18章中、親鸞の語録とされる1〜10章を取り上げて、各章ごとに解説を加えている。

最初に原文が注釈付きで掲げられ、続いてその内容を掘り下げていくというスタイルになっているため、原典に常に引きつけながら著者の解釈を味わうことができるようになっている。もっとも、解釈自体は必ずしも原典をダイレクトに深めるだけではなく、むしろ古今東西の様々な本や逸話などを取り上げつつ、かなり自由自在に展開されていく。それも、その取り上げられているエピソードが、キリスト教の知見やサイエンスの分野、あるいは星野富弘氏の言葉や「夜と霧」のフランクルなど幅広いうえ、どれもとても魅力的である。そして、それらと歎異抄の言葉が共鳴し、ひとつの宗教を超越した普遍的な思想の世界へとつながってゆく。

また、その中で親鸞の師、法然についてきちんと評価しているところも良いと思う。親鸞を論ずる場合、えてしてそのアンチテーゼとして法然の思想が批判的に取り上げられるケースも少なくないが、ここでは両者の差異は差異として丁寧に論じ分けた上で、親鸞に先立つものとしての法然の評価もしっかり行っている。

全体的に、非常に分かりやすい言葉で解きほぐすように歎異抄の世界を読み解いている。著者独自の論理と思える部分もないではないが、そもそも歎異抄自体が読み手ごとにいろいろな見方ができる奥深さをもっているのであり、読む側も著者の意見を参考にしつつ、あらためて原典に向かい合っていけばよいのだと思う。