【233冊目】水上勉「雁の寺・越前竹人形」
- 作者: 水上勉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1969/03/24
- メディア: 文庫
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表題作2編が収められている。
「雁の寺」は、孤峯庵という寺の住職である慈海、慈海に囲われている愛妾の里子、住み込みの少年僧である慈念の3人を軸に話が進む。中でも異様なのは、少年僧慈念である。背が低く頭が大きい異相の持ち主で、捨て子として寺に預けられた彼は、惨めな生活と過酷な修行のなかで憎悪と怨念を鬱積させ、最後には慈海を殺害して他人の棺に押し込み、寺の襖に書かれた「子に餌を与える親の雁」の絵を破り取って行方をくらます。殺人も恐ろしいが、何より襖絵に描かれた親の雁を破る行為にどきりとした。慈念の鬱屈と憎悪の深さに加え、母に捨てられた悲哀がいたましい。
「越前竹人形」も悲しい話だが、まだどこかに救いの光のようなものがある。すぐれた竹細工師である喜助が、父が情を寄せた遊女の玉枝を妻とするが、母のように玉枝を思って指一本触れようとしない。その間に玉枝は遊女時代の客に再会して犯され、妊娠してしまう。堕胎を考えて男に会うが騙されて見放され、たまたま出会った人の良い船頭のおかげで九死に一生を得るが、最後は肺病で死んでしまう。玉枝が喜助に語る最期の言葉は涙なしにはよめまへん。
そして何より魅力的なのは、ほぼすべての会話が京都弁であるところ。このものやわらかく、情を含んだ言葉遣いがあってこそ、悲しい話も引き立つのである。標準語など、これに比べればまことに無粋で粗雑な言葉であると思わざるをえない。