自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【229冊目】玄田有史・曲沼美恵「ニート」

ニート―フリーターでもなく失業者でもなく (幻冬舎文庫)

ニート―フリーターでもなく失業者でもなく (幻冬舎文庫)

気鋭の労働経済学者とフリーライターによるニート論。玄田氏がニートに関するデータや各地での対策例の提示などを示し、曲沼氏がニートと呼ばれる人々へのインタビューを行っており、客観的で俯瞰的な見方と個別具体的な見方の遠近ふたつの視点から、複眼的にニート問題を眺められる内容となっている。

特に印象的だったのは、玄田氏が指摘する「14歳」の重要性。ニート予防対策として行われている就業体験等の多くは高校生や大学生などを対象としているが、それでは遅すぎると玄田氏は指摘する。なぜなら、問題は具体的な職業体験よりも、そもそも社会の中での自分の存在意義や、他人と交わって働けることへの自信といった、もっと根本的なところにあると考えられるからである。そして、これらを実感できる体験をする機会を、まさに子どもが大人になりかかる変容期である14歳にできるかどうかが大きな分岐点になるという。

特に、実例として挙げられている兵庫県富山県の「トライやる・ウィーク」は素晴らしい。普通の職場体験がせいぜい1〜2日の「職場見学」レベルにとどまるのに対して、この事業では5日間にわたって県内の全中学生を実際に大人にまじって働かせる。最初は「お客さん」だった中学生たちが、実際に大人たちの中で働く中で「顔つきが変わってくる」という。大人の社会の厳しさと、その中で自分の存在価値が生じ、職場に「居場所」が生まれることで、中学生たちは社会の中での自分の存在意義や自信の種のようなものを、そこで植え付けてもらえるのである。さらに、この事業には不登校状態の改善という思わぬ副次的効果もあったという。ニート問題と不登校問題という、似通っているような気もするが微妙に異なるふたつの事象が、同じ5日間の職場体験で改善してくるというのも面白い。