自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【182冊目】中沢孝夫「〈地域人〉とまちづくり」

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商店街をはじめとした地域産業の発展が地域の活性化につながる例をひきながら、望ましいまちづくりのあり方について論じている。

地方の商店街の多くが「シャッター街」化し、町の中心が地盤沈下を起こしているケースは日本中枚挙に暇がないと思われる。その原因として決まって挙げられるのは郊外の大規模小売店等の存在である。それも確かにひとつの原因ではあろうが、むしろ著者は、原因を他に求め、行政や政治に補助を求めてきた旧来型の商店街が、行政依存、補助金依存で足腰を弱め、自ら経営努力や創意工夫を怠ってきたことを厳しく指摘する。その証拠となるのが、早稲田の商店街、釧路の屋台村、長浜市の「黒壁」など、行政主導の地域活性化政策とは違ったところから誕生した、日本各地にみられる成功例である。

これらに共通する大きなポイントが、本書のタイトルともなっている「地域人」の存在である。「地域人」は政治家でも公務員でもなく、多くは地元の商店主や住民などの「市井の人々」なのであるが、彼らの柔軟なアイディアと行動力、ネットワークを形成し活用する力が、それぞれの地域の潜在力を引き出し、商店街に人を呼び戻し、地域を活性化させているのである。彼らに共通するのは、行政の補助もうまく活用しつつ、基本的には「自力本願」でまちづくりに取り組んでいることだ。また、最初から「地域活性化」などと大きなテーマを掲げず、できること、小さなことから始めて、地道な取り組みを積み重ねた結果として大きな成功に至っているケースが多いのも面白い。

こうなると行政としてはかなり立ち位置が難しいのだが、少なくとも行政主導の「地域活性化」事業の多くが、やる気はないが声ばかり大きい「地元有力者」に引きずられて無駄な補助金を垂れ流すばかりで、ろくな結果を生んでいないことは明らかである。今の行政に求められているのは、やる気のあるキープレーヤーを見いだし、自主的な取り組みを尊重しつつ謙虚に手を差し伸べる「一歩下がった姿勢」ではあるまいか。