自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【177冊目】荻原浩「噂」

噂 (新潮文庫)

噂 (新潮文庫)

萩原氏の小説は以前「メリーゴーランド」を読んだが、他にも映画化された「明日の記憶」など、わりとヒューマンタッチのものが多いような印象があった。しかし、本書はかなり方向性が異なり、ミステリー・サスペンス仕立てとなっている。

渋谷の女子高生を中心に広まる「レインマン」の噂が現実となり、悪夢のような連続殺人が続く。その解決に奔走する小暮と名島の刑事コンビがいい。男女のペアという組み合わせが良く活かされた設定となっている。さらに、女子高生とのやり取りがよく出てくるのだが、その会話や描写に本当にリアリティがある。「いまどき」の女子高生が実際このとおりなのかどうかは分からないが、さもありなん、と思わせるものがある。しかもそれが単なるもの珍しさで取り上げているのではなく、しっかりと事件に絡ませているところがうまい。

前に読んだ時も思ったのだが、この作家は本当にうまいな、と思う。情景描写や心理描写がわりとすんなり入ってくるのだが、それでいてテンポ感も崩れない。猟奇的な事件を扱って適度にグロテスクな描写も入れつつ、読み手を変なところで不快にさせない配慮もみえる。しかも、伏線をいくつもしっかりと織り込み、解決に向けて事件をときほぐしてゆく。この作家、あまりミステリーは書いていないようなのだが、タイプとしてはかなり向いているのではないか。

あと特筆すべきは「最後の一行」の見事などんでん返し。こういうのは結構「すべっている」ものも多いのだが、これは成功だと思う。「噂」の怖さというものが鮮やかに反転し、いわばネガとポジが裏返る瞬間である。