自治体職員の読書ノート

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【175冊目】佐渡裕・辻秀一「感じて動く」

感じて動く

感じて動く

スポーツ心理学を専門とする辻氏と、指揮者である佐渡氏という面白い組み合わせによる対談を、佐渡氏の語りというかたちに再構成したもの。

一万人の第九」での奇跡的な瞬間、音楽人生の遍歴、バーンスタインへの想い、指揮の面白さなど、話はさまざまに展開する。面白いと思ったのは、小澤征爾バーンスタインなどにここぞというところで助言をもらい、それに従って「進路変更」していることが、結果として人生の大きなターニングポイントになっているところである。それはやはり、そうした助言をもらえるだけの本人の資質や努力もあるのだろうが、やはり(偉大なマエストロの言葉とはいえ)助言に従ってそこで全力を尽くすという本人の「素直さ」が大きいように思う。

また、一万人の第九のくだりでは、指揮の途中で自分が宙に浮いて上からオーケストラや合唱団を見下ろしているような感覚に陥ったという体験が紹介されている。まさに奇跡そのものの体験である。それほどではないにしても、数多くのコンサートを振る中で、やはり年に何回かは特別な演奏会、特別な体験というものが訪れるというが、それは努力すればなんとかなるというものではなく、まさに「来臨する」たぐいのものであるらしい。

また、バーンスタインの思い出についてもいろいろ書かれているが、本当に佐渡氏はバーンスタインに心酔していたのだな、と伝わってくる。「バーンスタイン最後の弟子」と紹介されることも多い佐渡氏であるが、その影響の大きさ、受け継いだイズムの濃さはまさに「最後の弟子」というにふさわしいものであるように思える。

ほかにも音楽への思い、指揮することの楽しさ、ベルリンフィルを振りたいという「夢」など、無邪気な音楽少年が楽しそうに音楽のことを話しているような調子で話が続く。本当にこの人は音楽が好きで、純粋でひたむきな少年のような人なのだろうな、と思わせられた。お会いしたことはないが、その熱い語り口と澄んだ目が見えるような一冊である。