自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【170冊目】東京都江戸東京博物館編「江戸東京学の現状と課題 江戸東京における首都機能の集中」

首都機能移転論議がいまだ大真面目に論じられていた頃(といってもわずか数年前であるが)、江戸以来の首都一極集中の歴史について江戸東京博物館で行われたシンポジウムの内容をまとめた本である。

読んでまず気づかされるのが、江戸時代には江戸「一極」集中であったとは、単純にはいいがたいという点である。当時、確かに江戸は世界的に見てもロンドンや北京と並ぶ巨大都市であったが、大阪や京都も(江戸に比べて規模は劣るが)世界水準でみれば有数の大都市であり、それなりに分散が起こっていたのである。それに、江戸には政治の中心が置かれいわゆる首都機能をもっていたが、一方で京都には天皇家の御所があり、歴史的観点からみれば「ミヤコ」として江戸に並ぶひとつの極をなしていたということもある。

さらに、参勤交代で武士階級を中心に「金があって暇がある」連中が江戸に集中したため経済や文化、芸能が江戸に集中したが、一方、地方の「藩」は幕府の統制の中でもそれなりに独立性が保たれており、いまふうに言えば地方分権の受け皿としてしっかり機能し、地方独自の文化や習俗を育んでいたという。むしろ現在のような極端な東京一極集中は、明治維新後の中央政府が廃藩置県を実施し、江戸に集中していた政治・経済のインフラをそのまま流用しつつ、中央集権を進め地方統制を強めていった結果であるらしい。

現代の首都機能移転について本書は(一部を除き)あまり直接には触れていないが、そもそも首都とは何か、都市とは何かという点でいろいろなことを教えてくれている。そして、こうした「首都論」「都市論」といった基本哲学の部分こそ、土建国家的発想や利益誘導的発想ばかりの首都機能移転論議にすっぽり抜けていた点なのかもしれない。