自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【166冊目】清水聖義・山本武・守屋有「自治体の経営戦略」

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群馬県太田市におけるISOマネジメントシステムの導入事例をベースとした自治体経営論であるが、太田市清水市長自身が監修し、寄稿している。内容も、太田市のケースが細かいところまで取り上げられており、いわば太田市をモデルケースとして自治体経営を考えるものとなっている。

ISOについては一時期、全国の自治体でブームとなった。そのため各自治体が取得に走り、いろいろ弊害も取り沙汰されたところであるが、先駆的事例である太田市の例を見ると、重要なのは「何のために導入するか」という「目的」の明確性と、そのためにはISOという方法が適切なのかという「手段」の検討であるように思われる。当たり前といえば当たり前なのだが、「右へ倣え」で「他がやっているから」と安易にISO取得に走る自治体が多かったように仄聞している(こういうことはISOに限らないが)。先駆自治体が先駆自治体たるゆえんは、先行事例に頼るのではなく、自ら目的や必要性を判断し、そのために必要と思われる手段を(しっかり検討した上で)思い切って導入できる主体的で果断な決断力にあるのかもしれない。

内容は、太田市の実例をなぞりながら、ISO9001シリーズと14001シリーズそれぞれの自治体への導入について考えていくものとなっている。その中でまず強調されるのが、経営方針決定におけるトップマネジメントの重要性である。さらに、決定後は大胆に組織内の「分権化」によって権限を下部組織に委譲していく。個々の業務の遂行は現場レベルで業務手順書を作成し、徹底した標準化を図るとともに、常に改善を図り、その成果を上にあげていく。このようにして、トップから現場の第一線までの個々のレベルごとに役割分担とメリハリをつけ、あくまでも当初の目標に向かってトップダウンボトムアップを絶妙に組み合わせていくことにより、組織自体が大きく脱皮していくことになる。

その中心となるのが、一般的にはPDCA(Plan-Do-Check-Action)のサイクルであるが、自治体現場としてむしろSDCA、すなわちStandard(標準規格)-Do-Check-Actionの流れが重要になるとの指摘がある。自治体の業務には法令等で義務付けられているものも多いため必ずしもPlan(計画)から始まるとは限らず、むしろ標準的な内容を、DCAの中で修正・改善していくことが重要となるためである。この「業務手順書」は、トップの「経営方針」に対応する現場のスタンダードであり、非常に重要な位置づけを与えられている。ISOそのものの導入の有無にかかわらず、自治体経営のマネジメントサイクルを構築するうえで非常に重要な指摘が数多くなされている本である。