自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【165冊目】 出井信夫「基礎からわかる自治体の財政分析」

基礎からわかる自治体の財政分析―地域経営の視点から財政シミュレーションまで

基礎からわかる自治体の財政分析―地域経営の視点から財政シミュレーションまで

本書は大きく2部に分かれている。前半は地方財政の基本的な構造についての解説であり、歳入や歳出の個々の項目、それに基づく財務指標などを扱った財政分野の基礎的なテキストとなっている。これに対して、後半部分は財政を通した自治体経営のあり方がテーマとなっており、いわば地方分権に対応した自治体財政の応用編である。

前半のうち特徴的なのは、個々の財務指標や数値の説明の際、具体的な市町村の事例(ほとんどが新潟県柏崎市)を、類似団体との比較データとともに挙げていることであろう。そのため、それぞれの指標や数値のもつ意味や、それをもとにどのように「わが自治体」の財政状況を分析すればよいのかがわかるようになっている。また、バランスシートの説明にも力が入っている。総務省方式のバランスシートの具体例が挙げられ、その個々の項目の意味について詳しく説明されており、企業会計とは違う自治体会計ならではのバランスシートの意味合いや活用方法が分かる。

後半部分は、NPM、PPP等、自治体経営の様々な手法が取り上げられている。ここでも、本書のテーマである財政分析との関連性が常に意識され、自治体経営のあり方を財政という切り口から整理するものとなっている。ここでも、先進的な取り組みを行っている自治体の例が詳しく挙げられており、具体的な適用事例を通して自治体経営の手法を学ぶことができる。また、第3セクター等の半官半民団体についても日本の現状に沿った整理がなされているほか、それ以外にもさまざまな可能性が挙げられている。個人的には、地域住民を巻き込んだ「ジョイントセクター」が、いろいろ可能性が広がり、面白いと感じた。

また、大変参考になったのが、公益信託や基金、寄付金等を活用した自治体経営のあり方である。こうした手法は、資金調達と住民参加が表裏一体となって自治体の経営の質を高めることにつながるものであり、今後ますます導入事例が増えそうである。特に公益信託や「まちづくりトラスト」などについてはほとんど知らなかった。昨今、住民との「協働」が強調されることが多いが、こうした協働のあり方もあるのか、と思わせられる内容であった。