自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【162冊目】田村秀「政策形成の基礎知識」

自治体職員を対象とした政策形成の入門書。

堅苦しい理論書かと思っていたら、住民アンケートや統計のノウハウや注意点、タウンウォッチングのすすめ、コンサルタントや大学の活用法など、政策形成のいわばツール面に関する情報が充実していて意外だった。また、NPOとの協働や政策法務の重要性についても、実際のケースや判例などをもとに丁寧に記述されている。著者自身の体験に基づく具体例が豊富なことに加え、根拠となるデータが的確に示されており、非常に信頼性の高い本となっている。

自治体職員が政策形成に取り組む場合、確かに住民アンケートやさまざまな調査をかけたり、統計的なデータを引っ張ってきて論拠とすることが多い。また、場合によっては外部のコンサルタントシンクタンクに調査や提案を求めることもある。著者は、そうした方法自体を非とするわけではないが、そのやり方によって効果がまるで変わってくることを厳しく指摘する。誘導的なアンケートや相関関係と因果関係の取り違えによって判断がゆがめられるケースや、外部調査の場合でも調査者側が依頼者である自治体の意向に沿った結果を提示する(要するに「おもねって」しまう)ことが多く、それらを安易に採用した結果、見当はずれな施策や無駄な事業が次々に展開され、破綻する。その具体例が、裁判にもなって本書でも詳しく取り上げられている下関市の日韓高速船事業である(なお、本書の時点では高裁判決までであるが、その後最高裁判決が出ている→
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=24986&hanreiKbn=01 なおこの判決は市の補助金支出の公益性を認めており、高裁判決を覆すものとなっている)

また、著者は三重県で北川元知事の時代に財政課長を務めており、その際の「北川体験」も取り上げられている。「黒船来襲」といわれた北川県政を内部から見るものとなっており、面白い。政策形成の実践面を知るための重要なポイントが網羅された一冊である。