自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【157冊目】小林真理編「指定管理者制度 文化的公共性を支えるのは誰か」

指定管理者制度―文化的公共性を支えるのは誰か

指定管理者制度―文化的公共性を支えるのは誰か

指定管理者制度も導入からしばらく経ち、その結果がある程度あらわれつつある。本書はミュージアムや図書館などの文化施設における「導入後」の指定管理者制度の状況について、いわば中間的な評価と総括を行っている。

おおむね前半が学者らによる理論的な概説、後半が実際に指定管理者として施設運営を行う立場からの「現場報告」となっているが、制度導入前の指定管理者制度関連の書籍の多くが制度自体の是非を問うものであったのに対して、本書は制度自体の存在を前提に、その中にあって文化施設の運営はいかにあるべきかを論じたものとなっている。そして、実際に運用した結果あらわれてきた問題点が、さまざまなかたちで示されている。

中でも多くの事例にみられるのは、指定管理者を選定するにあたって、行政側が施設の「ミッション」に対する明確なビジョンや経営方針など、施設運営の方向性を明確に示せていないことである。それがもっともはっきり出たのが川崎市民ミュージアムのケースであろう。この施設は入場者数が激減し、市側は事業予算を大幅にカットする一方、運営団体に対して血のにじむような経営努力を強いてきたが、川崎市の外部監査によって存在意義自体を問われるような酷評を受けた。しかし、その後に専門家らを交えて設置された運営改善委員会の結論は、ミュージアムの不振の原因は市の経営方針の欠如と設置当初の無軌道な運営やコレクションの収集などであるというものであったという。市はそれまで運営者側の問題点を指弾してきたのであるが、実は運営者側には問題はなく、市の姿勢や経営方針のレベルに問題があったのである。

逆に言えば、直営や従来の管理委託制度下においては、こうした点が曖昧でいい加減であっても施設運営が行われてきてしまった(その結果が今日の「空箱」施設の乱立と膨大な赤字体質である)といえる。指定管理者制度は、一見そうは見えないが、実は施設設置者である行政にこそ施設の方向性や目標を明確化するよう迫っているのだといえよう。

他にもアウトプット仕様書の導入、指定管理者の評価の問題、大半が3年から5年としている指定期間の妥当性など、制度導入後浮かび上がってきた主要な問題点がひととおり指摘されている。文化施設中心の内容だが、今後の指定管理者制度を考える上で踏まえておくべき一冊である。