【150冊目】横山秀夫「震度0」
- 作者: 横山秀夫
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2005/07/15
- メディア: 単行本
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ふつう、警察を舞台にした小説には2種類ある。ひとつは探偵モノのバリエーションで、事件解決を主眼としたもの。もうひとつは警察組織を描いたもので、本書の著者にはこれまで、後者寄りのパターンが多かった。
ところが、本書がすごいのは、1冊の中でこの両方を達成していることである。しかも、単に事件解決と組織の問題を並列しているだけではない(それなら、「踊る大捜査線」シリーズもそうだ)。詳しく書くとネタバレになってしまうが、組織の問題と事件の解決が本書では見事に融合し、一体のものとなっているのである。似たような試みはいろいろあるが、ここまでの完成度のものはなかなかないのではないか。
本書の舞台はN県警。阪神淡路大震災の日、県警の筆頭課長である警務課長の姿が消える。不祥事をおそれ内密に解決しようとする県警の内部で起きる対立、反目。そこに映し出されるキャリア組と現場、さらにはその内部で複雑にからみあう衝突、昇進や天下りをめぐる攻防。組織とその中でもがく男女を、本書はみごとに描き切っている。警察社会の特殊性もあるとはいえ、同じ組織に身を置く人間としては、いろいろ身につまされる部分もあった。特に、現場とキャリアに挟まれる立場の「準キャリ」の堀川が、唯一、人間味を感じさせる良い役どころとなっていて格好良い。
さらに事件の解決では、さまざまな伏線が思わぬ関連を見せつつ、最後にはすべてが一本の糸となり、思わぬドラマにつながってゆく。その展開はまさに「息詰まる」の一言で、かなりの長さにもかかわらず、最後までテンションを保って一気に読ませる。横山秀夫にはずれなし、とどこかで書いた記憶があるが、本書も期待にたがわぬハイクオリティの1冊である。