【149冊目】クリストファー・フッド「行政活動の理論」
- 作者: クリストファーフッド,Christopher Hood,森田朗
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/11/29
- メディア: 単行本
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「サッチャー以後」のイギリスで著された行政学の代表的テキストのひとつである。原題はadministrative analysisつまり「行政活動の分析」であるが、まさに行政活動全般を基礎から分析し、再構築したものとなっている。
本書はまず「公共」「公共財」とは何かという原理から入る。そして、行政活動の基礎をなす「ルール」、つまり法規について、「作成」「執行」にそれぞれ1章をあてて詳しく分析し、さらに公共の担い手論(いわゆる「官か民か」)、行政は変化にどう対応するか、そして、消費者・受益者中心の行政サービスがどこまで可能かという「消費者主権」論を論じている。わずか6章の本であるが、その中に行政というものの抱えるテーマや問題点がみごとに収められている。
本書でひとつのキーワードとなっている独特の用語が「便宜主義(者)」というものである。これは、利己的かつ合理的に活動する個人を想定したものであり、本書での議論の多くは、この「便宜主義者」に対応しつついかに行政活動をまっとうするかという点に行き着く。
実際、われわれの行政活動においても、この「便宜主義者」の存在が悩みのタネとなることが多い。にもかかわらず彼らの存在を正面から扱った行政学のテキストは案外少ないように思う。むしろ学者の本を中心に、安易な「市民主権」の名のもとに、いわば住民性善説に立って行政を論じる楽天的な本が多く(特に「市民との協働」を謳うものはほとんど、本書でいう便宜主義者の存在をまともに取り扱っていないように思える)、現場レベルではほとんど使い物にならなかったりするのであるが、本書はそうした類とは一線を画したハイレベルな行政理論を提示しているといえる(もちろん「官僚性悪説」的な視点もたっぷりと盛り込まれている)。
本書は何かの結論を押し付けるものではないが、行政というものの構造を客観的かつ明瞭に描き出し、具体的な議論に落とし込んでバランスよく論じている。行政学の基本書としてお勧めしたいすぐれたテキストである。