自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【147冊目】P.F.ドラッカー「ネクスト・ソサエティ」

ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる

ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる

経営学の泰斗、ドラッカーによる「次なる社会」論。経済の見通しについての論及もあるが、主として世界的な少子化・高齢化による社会の変貌と、それへの対応策(主に経営者にとっての対応策であるが)を示している。

20世紀末から21世紀初頭にかけていくつかの雑誌に掲載された記事やインタビューを集めて構成されているためやや重複もあるが、経済や社会に対する分析の確かさと世界全体を視野に入れるダイナミックな視点にはやはり驚くべきものがある。今後の企業経営のあり方を考察することが目的となっており、企業経営者や従業員に向けた内容であるため、自治体職員としてはややなじみのない世界ではあるが、それでも大切なことが書かれている点には変わりがない。

例えば変化に対する姿勢である。著者は、起きた変化に対応しようとするのでは遅いという。変化を予測し、もっといえば変化を自ら起こしてその風に乗らなければ、時代にキャッチアップすることはできない。また、いわゆるIT革命の影響に対する慎重な見方も、今では当然のものとされているが、日米がともにITバブルで浮かれ、IT化に対する評価が過大であった時期の記事であったことを考えると、その視点の的確さはさすがである。

さらに雇用形態の多様化に対して、知識労働者が増大する今日においては長期的視点に立った人材育成こそが重要であると指摘するほか、日本の官僚制をめぐる議論では、一般に「先送り体質」として非難されている官僚の体質について、日本の官僚はこれまで先送りによって問題を解決することに成功してきているのであり、むしろわずかな景気後退の兆候に対して行動を起こした結果が、あのバブル期の地価・株価の暴騰とその後の長期不況という惨憺たるものであったことを明らかにしている。

企業経営のみならず、行政運営においても、細部にとらわれず巨視的な視点をもち、そこを踏み外さない施策展開を行うことの重要性はいろいろなところで言われている。しかし、実際にそうした巨視的な視点をもつことはかなり難しく、現実には目の前の細かな事件や事情に追われているのが実情である。その点、本書は「巨視的な視点」をまさに示すものであり、自治体行政には直接関係のない部分も多いが、ものの見方として参考になるところが大きいと思う。少なくともドラッカーという経営学の巨人がどういうことを言っているのか、その一端を知るだけでも意味があると思われる。