自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【146冊目】石田芳弘「今こそローカリズム」

今こそローカリズム―石田芳弘対談集

今こそローカリズム―石田芳弘対談集

「地方」をめぐる対談集。元三重県知事の北川正恭氏をはじめ、現場で地方政治に取り組んできた政治家の方々から、評論家、アナウンサー、病院経営者など多様なゲストが登場するが、何よりユニークなのは、インタビュアーが犬山市の市長(今は「元市長」だが)であることだろう。自治体の現役の首長が、当代一流の論客揃いのゲスト陣と対等に渡り合っているところがすばらしい。また、いたるところで市長さんの犬山という地に対する強い愛情や思い入れ、土地のことを真摯に思う気持ちがストレートに伝わってくる。高い見識と決断力、行動力と犬山を愛する心が一体となった、すばらしい市長さんである。

対談はそれぞれに面白いが、一番読み応えがあったのは、教育学者の苅谷剛彦氏との対談。犬山市は首長と教育委員会がタッグを組んで教師による副読本の作成、少人数教育など、かなり積極的に教育に取り組んでいるが、その背景には市長自身の教育を重視する姿勢があり、そこが苅谷氏と意気投合し、ハイレベルの教育論議が展開されている。特に、苅谷氏のいう「民主主義がきちんと機能するには有権者の『賢さ』が重要であり、そのためには教育が重要である」すなわち「教育は本人のためだけではなく、社会全体のために必要である」という観点は、当たり前といえば当たり前なのだが、非常に大切なことだろう。

ほかにも、これは苅谷氏との対談だけではないが、それぞれの地方が国の規制や補助金行政に惑わされず、その地方に必要なオーダーメイドの事業をやっていくことがきわめて重要であり、そのためには職員の能力や住民との関係もあるが、最後は政治という場での意志決定が鍵を握っているとされている。つまりそこが、行政のトップでもあり政治家でもある首長という存在の意味であり、存在意義であるということのように思われる。政治というとあまり良いイメージをもたれていない部分もあるが、政治はやはり重要であり、政治の場に石田市長のような人材がいるかどうかが、その地方の明暗を分けることになるのだろう。