自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【129冊目】中沢孝夫「中小企業新時代」

中小企業新時代 (岩波新書 新赤版 (578))

中小企業新時代 (岩波新書 新赤版 (578))

中小企業の現状と今後について、さまざまな具体例を通して考察した本。

中小企業については、これまでは不況の影響もあり、ネガティブな方向性の議論が多かったように思う。確かに、多くの中小企業が大企業の下請けとして搾取され、あるいは貸し渋り貸しはがしの犠牲となり、不況の不利益をもろにかぶってきたことは否定できない。しかし、本書はそうした側面にも触れつつ、中小企業の実力を高く評価し、その可能性についてかなり明るい展望を示している。そのベースとなっているのが、実際に不況を抜けてきた実力ある中小企業の経営者たちの声である。本書では、そうした経営者たちの声や中小企業の取り組みの具体例を豊富に取り上げている。

さまざまな具体例を見ていると、いくつかの共通点があることに気付かされる。ひとつは、集積性のメリットである。大田区東大阪市等、中小企業が密集しているところに力のある中小企業が多いひとつの要因は、近接業種の企業がかたまっているため部品や資材の調達が容易であることらしい。二つ目は、これと一見相反するように思えるが、交通事情の改善による地域的なデメリットの消滅である。そのため、工場は地方に分散していても、発達した道路網により都市部に短期間で納品することが可能となり、安い地価で広大な土地に工場を構えることができるというわけである。

また、東アジアなどへの製造拠点移転や技術移転など、いわゆる空洞化の問題についても、著者はそれほど不安視していない。その要因として、著者は日本の中小企業がもつ高度な技術水準を挙げる。しかしそれは、逆に言えば、今後の中小企業が辿るべき道は高度化・高付加価値化であることを意味している。単純な大量生産だけでは生き残れないのである。

ほかにも本書では中小企業をめぐってさまざまな指摘がなされているが、これらを見ていると、今の日本経済や企業のあり方についての議論がいかに大企業に偏っているかが分かる。しかし、当たり前のことであるが、日本の企業数の9割、従業員数の7割を占め、日本経済の基盤を担う中小企業を無視して日本経済は成り立たないし、地域経済もまた成り立たないのである。まあ、そういったことを含め、中小企業というのはなかなか面白いな、と思わせられる本であった。